国会議員全員が見落とした"法律のバグ"。自転車を追い越すと違反、追い越さないと渋滞の謎ルール
はじめに
前回の記事で、「自転車の停止線ルール」について書きました。そこで見えてきたのは、「法律のルール」と「現場の運用」が微妙にズレている、という現実でした。
でも実は、もっとすごい話があるんです。
「法律をちゃんと守ると、自転車を永遠に追い越せない道路が、日本中にある」
「え、どういうこと?」
はい、冗談ではなく、本当の話です。しかもこれ、交通の専門家や元警察官の人たちも「確かにおかしい」と認めている問題なんです。
今回は、この不思議な"法律のバグ"について、なるべく分かりやすく説明してみます。
問題の状況:こんな道路を想像してみて
まず、こんな道路を頭に思い浮かべてください。
- 片側1車線ずつの、ちょっと狭めの道
- 真ん中に黄色の実線が引いてある
- 自転車がゆっくり走っている
- あなたは車で、その後ろから走ってきた
さて、あなたはどうしますか?
「自転車を追い越したいな」と思いますよね。でも、ここに落とし穴があるんです。
2つのルールがぶつかっている
ルール①:黄色の線ははみ出しちゃダメ
道路の真ん中の線には色々種類があります。
- 白い破線(点線):追い越しOK、はみ出してもOK
- 白い実線:はみ出しちゃダメ
- 黄色の実線:絶対にはみ出しちゃダメ(一番厳しい)
黄色の実線は「追い越しのために反対車線にはみ出すのは禁止」という意味です。
ルール②:自転車の横は1.5m以上あけて追い越さないとダメ
一方で、2026年4月から新しいルールが始まりました。
「自動車が自転車を追い越すときは、十分な間隔をあけなさい」
具体的には1.5mくらいが目安とされています。これは「思いやり1.5m運動」として、警察も呼びかけているものです。
ここで矛盾が起きる
さあ、ここで計算してみましょう。
- 道路の幅(片側):2.7mくらい(けっこう普通)
- 自転車の幅:0.6mくらい
- 車の幅:1.8mくらい
- 自転車との間隔:1.5m必要
合計:0.6 + 1.5 + 1.8 = 3.9m
あれ? 道路の幅2.7mなのに、必要なのは3.9m…?
1.2mも足りません。
つまり、反対車線(黄色線の向こう側)にはみ出さないと、絶対に追い越せないということです。
でも、黄色線ははみ出し禁止。
これはつまり…
分かりやすく言うと、こういうことです。
「追い越してもいいですよ。でも、追い越すための方法はありません」
ある記事では、こんなたとえ話で説明されていました。
「外出してもいいですよ。でも、玄関のドアは開けちゃダメです」
意味不明ですよね。でも、今の日本の法律は、こうなっているんです。
じゃあどうすればいいの?
選択肢は3つあります。
選択肢A:自転車の後ろを延々とノロノロついていく
→ 合法。でも、現実的に可能? 5km先まで自転車が走っていたら?
選択肢B:黄色線をはみ出して追い越す
→ 違反。2点減点、反則金9,000円(普通車の場合)。
選択肢C:自転車ギリギリを通過する
→ 2026年4月からの新ルール違反。接触事故のリスクも高い。
どれを選んでもダメ、という状況です。
実は警察も「困ってます」
面白いのは、これに対する警察側の立場です。
元警察官の人が書いた法律解説では、こんなふうに説明されていました。
「厳密には、たとえ先行する車が低速の自転車であっても、はみ出して追い越すことはできない。しかし、期待可能性の理論に照らしても、はみ出しをできるだけ少なくして対向車などの安全を確認しつつ追い越すことを、直ちに違法ということはできない」
「期待可能性の理論」というのは、難しく聞こえますが、意味はこうです。
「そもそも人間には守るのが無理なルールを、強引に押し付けることはできないよね」
という法律の考え方です。
じゃあ実際、取り締まられるの?
別の解説記事では、こう書かれていました。
- 法律上は違反
- 実態:安全ならば、だいたい黙認される
- ただし、事故が起きたら「違反していた」として過失が大きくなる
つまり、「普段は見逃してくれるけど、事故を起こした瞬間に『お前、違反してたよね』と言われる」という、けっこう怖い状態なんです。
この法律、誰が作ったの?
気になる人もいるかもしれません。「こんな変な法律、誰が通したの?」と。
時系列で追ってみると:
- 2024年3月5日:岸田内閣が道路交通法改正案を閣議決定
- 2024年4月16日:衆議院で可決(全会一致)
- 2024年5月17日:参議院で可決・成立(全会一致)
- 2024年5月24日:公布
- 2026年4月1日:施行
驚くべきは、衆議院も参議院も「全会一致」だったこと。
自民党、公明党、立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党、れいわ新選組…全ての政党が賛成したんです。反対票ゼロ、反対討論ゼロ。
つまり、「どこかの政党が悪い」わけではなく、国会全体が見落として通してしまった法律、ということになります。
まとめ
今回のポイント:
- 黄色線の道で自転車を追い越すのは、ほぼ不可能
- でも後ろをノロノロついていくのも現実的じゃない
- 警察も「期待可能性の理論」で、ある程度は目をつぶっている
- ただし事故を起こしたら、一気に不利になる
- この法律は、全政党一致で通してしまった
「法律はとりあえず作ったけど、現実に合うかどうかは後から考える」というのが、残念ながら今の日本のお役所のやり方なのかもしれません。
あとがき
この問題を調べていて、私も「え、マジで?」と何度も声が出ました。だって、全国の自動車ドライバーが毎日、違反するか渋滞を作るかの二択を強いられているってことですよ。
しかも、法律を作った人たち(国会議員)は全員賛成してるんです。誰一人、「あれ? これ追い越せなくない?」と気づかなかった。
もちろん、自転車の安全を守ることは大事です。事故で亡くなる人もたくさんいる。そこを守ろうとした気持ちは分かります。
でも、「ルールの理想」と「道路の現実」をちゃんと合わせないと、結局みんなが損をするんですよね。
次回(最終回)では、「じゃあ私たち一般人は、どうやってこの"法律と現実のズレ"の中で生きていけばいいのか?」という話をしてみようと思います。
それではまた!