【小中学生でもわかる】麻雀AIは人間より強い?将棋・囲碁と決定的に違う理由
じゃあ麻雀は? ──答えは、そう単純じゃない。
はじめに──AIが「勝った」ってニュース、聞いたことある?
ここ数年、こんなニュースを聞いたことがある人は多いんじゃないでしょうか。
「AIが将棋のプロに勝った!」「AIが囲碁の世界チャンピオンに勝った!」
将棋や囲碁の世界では、もうAIが人間のトップを超えたことは、ほとんど誰も疑っていません。プロ棋士自身が「AIには勝てない」と認めているほどです。
では、麻雀はどうなのか?
インターネットの掲示板やSNSを見ると、「麻雀AIはまだ人間を超えていないんじゃないか」「麻雀は運があるからAIには無理でしょ」という意見がたくさんあります。
本当にそうなのでしょうか? この記事では、小中学生のみなさんにもわかるように、できるだけかみくだいて説明していきます。将棋や囲碁との違いもくらべながら、「麻雀AIは人間を超えたのか」をいっしょに考えてみましょう。
そもそもAIって、どうやってゲームに「強く」なるの?
まず、AIがゲームで強くなるしくみを、ざっくり理解しておきましょう。
AIは人間のように「ひらめき」で手を思いつくわけではありません。かわりに、ものすごい量のデータから「こうすれば勝ちやすい」というパターンを学ぶのです。これを「機械学習」といいます。
たとえば将棋AIなら、何百万局ぶんの棋譜(過去の対局の記録)を読みこんで、「この場面ではこの手が良い結果になりやすい」ということを学びます。さらに、AI同士で何億回も対局をくり返して、自分で自分を鍛えます。これを「強化学習」といいます。
人間なら一生かかっても経験できない量の対局を、AIはほんの数日でこなしてしまう。だからどんどん強くなるのです。
AIは「天才だから強い」のではなく、「人間には不可能なくらい大量の練習をしているから強い」のです。人間が100年かかる経験を、数日で積んでしまう──それがAIの強さの秘密です。
将棋と囲碁──AIはどうやって人間を超えたのか
麻雀の話をする前に、まずは将棋と囲碁でAIがどうやって人間を超えたのかを見てみましょう。この2つを知っておくと、麻雀との違いがはっきりわかります。
将棋AIの場合──実は2012年にはもう超えていた
将棋AIが最初に世間をおどろかせたのは、2012年のことです。第1回電王戦で、米長邦雄永世棋聖がAI「ボンクラーズ」に敗北。翌2013年の第2回電王戦では、現役プロ棋士5人がAIと対戦し、AI側が3勝1敗1引分けで勝ち越しました。
この時点で、将棋AIの実力はすでにプロを超えていたと見るのが自然です。しかし当時、日本将棋連盟はトップ棋士(羽生善治さんなど)を対局に出さず、対戦するAIのプログラムを事前に棋士側に提供して準備期間を設けるなど、段階的にマッチメイクをコントロールしていました。そのため、「超えた」という社会的な認知は先送りされたのです。
2017年になって、当時の名人である佐藤天彦さんが将棋AI「Ponanza(ポナンザ)」に2戦2敗で敗北。ここでようやく、「もう将棋ではAIが人間より強い」ということが、だれの目にも明らかになりました。
ここで知っておいてほしい大事なことがあります。将棋AIは主に日本国内で、人間のプログラマーたちが手作業で開発したプログラムです。将棋はほぼ日本だけで指されている競技であり、AIの開発も日本の技術者たちが中心でした。評価関数(どの局面が有利かを判断する計算式)を人間が設計し、調整し、鍛え上げていった──つまり、「人間がつくったプログラム」が人間を超えたのです。
今では、プロ棋士がAIを「先生」のように使って研究するのが当たり前になっています。藤井聡太さんがとても強いのも、AIを使った研究の成果だと言われています。
囲碁AIの場合──人間の開発では超えられなかった
囲碁は将棋とはまったく事情が違います。囲碁は日本・中国・韓国を中心に世界中で打たれている競技で、AIの開発も世界中の研究者が取り組んできました。
しかし、囲碁は将棋よりもはるかに複雑です。盤面のパターン数は宇宙の原子の数より多いとも言われ、人間のプログラマーがどれだけ工夫しても、プロ棋士に勝てるAIはなかなかつくれませんでした。将棋のように「人間が設計したプログラム」で人間を超えることは、囲碁ではできなかったのです。
この壁を破ったのが、2016年にGoogle DeepMind社が発表した「AlphaGo(アルファ碁)」でした。AlphaGoがそれまでのAIと決定的に違ったのは、「自己学習型」の人工知能だったことです。人間がルールを細かく教え込むのではなく、AI自身が何百万回もの対局を自分で繰り返し、自分で強くなっていく。これは、人間が手作業で設計する従来のアプローチとはまったく別のものでした。
AlphaGoは世界最強クラスの棋士イ・セドルさんに4勝1敗で勝利。翌2017年には、さらに進化した「AlphaGo Master」が世界ランキング1位の柯潔(か・けつ)さんに3戦全勝しました。
将棋AIは、日本の技術者たちが人間の手で設計・調整したプログラムです。言ってみれば「人間が作った道具」が人間を超えました。
囲碁AIは、世界中の研究者が挑んでも人間の設計では超えられませんでした。超えたのは、AI自身が自分で学習する「自己学習型の人工知能」によってです。
この違いはとても重要です。将棋の場合は「人間の知恵の集大成が人間に勝った」ということ。囲碁の場合は「人間の知恵だけでは勝てなかったので、AI自身に考えさせたら初めて勝てた」ということ。同じ「AIが人間を超えた」でも、その意味はまったく違うのです。
ちなみに、インターネットでは「囲碁のほうが先にAIに負けた」「囲碁より将棋のほうが難しい」という書き込みを見かけることがありますが、これは事実と異なります。実質的に将棋は2012年の時点でAIに超えられていますし、囲碁が「人間の設計では超えられなかった」という事実は、むしろ囲碁の複雑さ・奥深さを証明しています。
麻雀が「特別」な理由──なぜ将棋や囲碁とちがうのか
さて、ここからが本題です。麻雀は将棋や囲碁とは、ゲームの性質がまったく違います。
ちがい① 相手の手が見えない(不完全情報ゲーム)
将棋や囲碁では、盤の上の情報がすべて見えています。でも麻雀では、相手の手牌(持っている牌)が見えません。山に残っている牌もわかりません。
見えない情報がたくさんあるゲームのことを、「不完全情報ゲーム」といいます。ポーカーも同じ仲間ですね。見えないものが多いから、「たぶんこうだろう」と予想しながら打たないといけない。ここが将棋や囲碁との最大のちがいです。
ちがい② 運の要素がとても大きい
麻雀には「ツモ」があります。山から牌を引くとき、何が来るかは完全にランダム(運まかせ)です。
どんなに正しい判断をしても、最後のツモで裏目に出ることがある。逆に、めちゃくちゃな打ち方をしても、たまたま良いツモが来て勝ってしまうことがある。これが麻雀の面白さでもあり、「AIが強いのかどうか」を判断しにくくしている原因でもあります。
ちがい③ 4人で戦う
将棋や囲碁は1対1のゲームです。でも麻雀は4人で同時に戦います。自分以外の3人全員の行動が結果に影響するので、「AさんがBさんに振り込んだせいで、Cさんが得をしてDさんが負けた」みたいなことが起きます。
コントロールできない要素が多い。これも、強さを測りにくい理由です。
| 比較ポイント | 将棋・囲碁 | 麻雀 |
|---|---|---|
| 情報の見え方 | すべて見える (完全情報) |
相手の手牌が見えない (不完全情報) |
| 運の要素 | なし | とても大きい (ツモ、配牌) |
| プレイヤー数 | 2人 | 4人 |
| 1回の勝負で 実力が出るか |
出やすい | 出にくい (運に左右される) |
| AIの強さを 証明しやすいか |
証明しやすい | 証明しにくい |
麻雀AIの歴史──ここまで強くなった
では、実際に麻雀AIはどこまで進化してきたのでしょうか。大きな出来事を見てみましょう。
- 2019年 マイクロソフトが開発した「Suphx(スーフォン)」が、オンライン麻雀サイト「天鳳」で十段に到達。天鳳の十段は、人間でもほんの一握りの超上級者しか達成できない段位です。AIとして史上初の快挙でした。
- 2020年〜 「NAGA(ナガ)」という麻雀AIが登場。天鳳で十段相当の実力を持ち、だれでも使えるサービスとして公開されました。自分の対局を「AIならどう打つか」で振り返れるようになったのです。
- 2021年〜 「Mortal(モータル)」などのオープンソースの麻雀AIも登場。だれでも無料で使える強力なAIが増え、プロ選手たちも日常的にAIを使って研究するようになりました。
- 現在 Mリーグ(麻雀のプロリーグ)の選手たちが、自分の打牌をAIでチェックするのはもはや当たり前。AIの判断は「正解」の基準のひとつとして広く認められています。
じゃあ結局、麻雀AIは人間を超えたの? 超えてないの?
ここが一番大事なところです。そして、答えは「どう"超えた"を定義するかによる」です。
……と言われると、ちょっとモヤモヤしますよね。もう少しくわしく説明します。
「超えている」と言える面
オンライン麻雀で、何千局・何万局と打ったときの長期的な平均成績で比べるなら、AIはすでに人間のトップ層と同等か、それ以上の成績を残しています。
Suphxは天鳳で十段に到達しました。NAGAやMortalも、トッププロ級の実力があるとされています。そして何より、プロ選手自身がAIを「先生」として使っている。これは、将棋の世界でプロがAIに学んでいるのとまったく同じ構図です。
「先生にしている相手に負けている」とは言いにくいですよね。少なくとも「判断の正確さ」という意味では、AIは人間を上回っていると見るのが自然です。
「超えていない」と言える面
一方で、こういう反論もあります。
「10回や20回の半荘(1ゲーム)では、人間がAIに勝つことは普通にある。将棋みたいに『100回やって100回AIが勝つ』という圧倒的な差はない。短い勝負なら、人間が勝つことは全然ありえる。だから"超えた"とは言い切れない」
これも、実はまちがっていません。麻雀は運の要素が大きいので、短期戦ではだれが勝ってもおかしくない。将棋のように「AIと人間の差」が目に見える形でハッキリ出ないのです。
たとえるなら、こういうことです。
サイコロを使ったゲームがあるとします。AIは平均して「4.2」が出せて、人間のトッププロは「4.0」だとしましょう。
1000回やれば、AIの方が成績がいいのはほぼ確実です。でも、10回だけなら、人間がたまたま6を連発してAIに勝つことも十分ありえます。
「10回で人間が勝ったから、AIは超えてない」と言えるでしょうか? それとも「1000回の平均でAIが上だから、超えている」と言えるでしょうか?
麻雀の「超えた/超えてない」論争は、まさにこの問題なのです。
3つのゲームを並べて──AIの「超え方」はそれぞれちがう
ここで、将棋・囲碁・麻雀を並べて、AIの「超え方」を整理してみましょう。
| 将棋 | 囲碁 | 麻雀 | |
|---|---|---|---|
| AIが人間を 超えた時期 |
2012年ごろ (社会的認知は2017年) |
2016年 | 2019年〜 (見方による) |
| 開発の範囲 | ほぼ日本国内のみ | 世界中 | 日本中心+海外 |
| AIの種類 | 人間が設計した プログラム |
AI自身が学ぶ 自己学習型の人工知能 |
自己学習型 (強化学習) |
| 「超えた」と 感じやすさ |
とても感じやすい (100回やって100回 AIが勝つレベル) |
とても感じやすい (同上) |
感じにくい (人間が勝つことも よくある) |
| 社会的な合意 | ほぼ全員が 「AIが上」と認めている |
ほぼ全員が 「AIが上」と認めている |
意見が分かれている |
| プロがAIから 学んでいるか |
はい | はい | はい |
こうして並べてみると、面白いことに気づきます。3つのゲームすべてで、プロがAIに学んでいるのです。
将棋と囲碁では「AIが人間を超えた」と広く認められています。麻雀でも、プロがAIを先生にしている。でも、麻雀だけ「まだ超えていない」と言われることがある。
なぜでしょうか? それは、麻雀の「超えた」かどうかの判断が、運というノイズに隠されてしまうからです。将棋や囲碁は「強い方が必ず勝つ」ゲームに近いので、差がわかりやすい。麻雀は「強い方が"長い目で見ると"勝つ」ゲームなので、差がわかりにくいだけなのです。
まとめ──「超えた」の意味を考えよう
最後に、この記事のまとめです。
「麻雀で"超える"とは何かを定義するのが先」──これがこの記事で最も伝えたいことです。
将棋や囲碁で「AIが人間を超えた」と言えるのは、ゲームの性質上、強さの比較がしやすいからです。1対1で、運がなくて、すべての情報が見えている。同じ条件で何度も戦えば、強い方がほぼ確実に勝つ。だから「超えた」と言い切れる。
でも麻雀は、そもそも「超える」の定義が決まっていないのです。
平均順位で上回れば「超えた」? 段位で上回れば「超えた」? 何万局打って何%勝てば「超えた」? リアルの麻雀卓で相手の表情を読む能力も含めるの?──この定義が人によってバラバラだから、「超えた」「超えていない」で議論がかみ合わないのです。
ただし、ひとつ確かなことがあります。
麻雀のトッププロたちが、自分の打牌をAIに採点してもらい、AIの判断を「正解」の基準として受け入れている。この事実は、「少なくとも一打一打の判断の質という意味では、AIが人間を上回っている」ことを示しています。
先生にしている相手を「まだ超えてない」とは、ふつう言いません。
「将棋のような"だれも異論がない完全な超越"は起きていない。でも、判断の正確さという面では、もう超えているか、少なくとも同等」──これが、いちばん正直で正確な答えだと思います。
そして、「まだ超えていない」と感じている人がいるのは、麻雀が悪いわけでもAIが弱いわけでもなく、ゲームの性質として、差が見えにくいだけなのです。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
この記事のテーマは「麻雀AIは人間を超えたのか?」でした。でも、本当に考えてほしいのは、「超えたか超えていないか」よりも、「"超える"って、そもそもどういうことだろう?」ということです。
将棋のように答えがはっきり出るゲームもあれば、麻雀のように答えが出にくいゲームもある。それは、どちらが優れているとか劣っているということではなく、ゲームの「性格」のちがいです。
麻雀は、運があるからこそ初心者でもたまにプロに勝てる。4人で打つからこそ、思いもよらないドラマが生まれる。AIが強くなっても、そういう面白さはなくなりません。
将棋も囲碁も、AIが人間を超えたあとも、プロの対局は変わらず面白い。むしろAIのおかげで新しい戦い方が生まれて、もっと面白くなったとも言われています。麻雀も、きっとそうなっていくのではないでしょうか。
「AIに勝てるか」じゃなくて、「AIと一緒に、ゲームはもっと面白くなれるか」。そっちのほうが、ずっとワクワクする問いだと思います。