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異世界転生神話 モコモコ道 ~いずれ魔王になる神は、最愛の女性を幸せにできない~ 作者:ムスイ
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第05話(一)モコモコとの出会い(1)

目を覚ました私は、うっすらと目を開けて周囲を見渡した。

少し離れたところに、二人の姿が見える。
異世界の父さんと母さんだ。
まだ頬を寄せ合って、スリスリしあっている。
まったく……仲のよろしいことで。

私はフ~ンっと背伸びをした。
体をひねり、手足をぐっと伸ばす。
しっかり泣いて、しっかり眠ったおかげか、体が軽い。頭もはっきりしている。

さてさて、これからどうしたものか。

――と、ここで気がついた。
体が、やけによく動く。

さっきまでは手足すらまともに動かせなかったはずだ。
それがひと眠りしただけで、こうも違うものなのか。

そういえば、自然界の動物は生まれてすぐに立ち上がるものが多いと聞く。
立てなければ、肉食動物に食われて終わりだからだ。
この世界の赤ん坊も、似たようなものなのかもしれない。

なかなか便利なところだな、異世界ってやつは。

私はひょいとベッドから飛び降りた。
そのまま二人のところへ歩いていき、声をかける。

「父さん、母さん、おはよう。
 おなかすいた。
 なんか食べるものない?」

「!!!!!!」

「!!?」

二人がそろって固まった。
目を見開き、口を半開きにしたまま、こちらを見ている。

「ムスイ、もうしゃべれるようになったの?」

母さんが、とても驚いたという表情でそう言った。

「うん、そうみたいだね」

「まあ……まあ、すごいのね、うふふ」

母さんは両手を胸の前で合わせて、心の底から嬉しそうに笑った。

「!?!?!?!?」

一方の父さんは、口をぱくぱくさせて、交互に私と母さんを見ている。

まったく、なんだその反応は。
まるで私がおかしいみたいじゃないか、失敬な。

「ところで母さん、お腹がすいたんだけど」

「まあ、おっぱいが欲しいのね。
 私、初めてだからうまくできるかしら」

母さんは少しテレながらも、張り切り始めた。
おっぱいを吸わせる気らしい。

「いやいや、そういうのはいいから」

「え?」

「おっぱいはいいから、普通のご飯を出してくれる?」

「まあ、もう普通のご飯を食べるの」

「うん」

「わかったわ。ちょっと待っててね」

母さんは特に疑問を感じる様子もなく、台所へ向かっていった。
父さんは相変わらず、わなわなと震えながら私を見ている。
相変わらずの、化け物でも見たかのような表情だ。失敬な。

私は台所へ行き、母さんの様子をうかがう。

なんだかしどろもどろで、不器用な手際である。
とても料理が上手いとは思えない。
これはほおっておくとヤバイものが出てくるパターンだ。
仕方がないので、口を出すことにした。

「ああ、違うよ母さん。そうじゃない」

「え? どういうこと?」

「僕はまだ生まれたばかりで歯が生えてないんだよ。
 その料理じゃ噛めないから食べれない。
 離乳食を作ってくれないかな?」

「離乳食? どうやって作ればいいのかしら?」

母さんは小首をかしげた。
母さんの料理技術がダメなのか、異世界だからなのか、話にならないな。

「わかった、それじゃあ僕がレシピを教えるよ。
 僕が指示を出すから、その通りに作ってね」

「まあ、本当? それじゃあお願いね」

私は母さんに、材料をやわらかく煮て、細かくして、食べやすくする方法を教えてあげた。
異世界に来て最初にやることが、赤ん坊による離乳食の調理指導とは。
人生というのは何が起きるかわからないものだな。

「それじゃあ、いただきます!」

食べてみると、ちゃんとやわらかく仕上がっていた。
これなら母さんの料理にもある程度期待できるかな。
そんなことを考えながら、私は異世界初の料理を堪能した

「ごちそうさまでした!」

腹が満たされると、頭もすっきりする。
このまま家の中にいても仕方がない。
せっかくの異世界だ、少し外を見てこよう。

「ちょっと出かけてくるね」

「行ってらっしゃい。
 夕方までには帰ってくるのよ」

「うん、わかった~」

そう言って、私は初めての外出へ出かけた。

私が外に出て行ったあと、父さんはようやく動き出す。

「か、母さん……」

「どうしたの、お父さん?」

「ムスイの行動や言動がおかしいと思わないか?
 自分には歯が生えていないとか言い出したり、離乳食の作り方を知っていたりとか……」

「別に変じゃないわ。
 ムスイに歯が生えていないのは本当のことだし
 言われたとおりに作ったら料理もとってもおいしいわよ。 
 お父さんも食べてみるとわかるわよ。
 はい、あ~んして」

母さんはスプーンでおかゆをくみ、幸せそうに父さんに食べさせようとする。
しかし、父さんはそれどころではない。

「す、すまん……。
 少し気分がすぐれないから、横になるよ……」

「まあまあ、風邪かしら。ゆっくり休んでね」

父さんはそのまま寝込み、しばらく起き上がれなかったそうだ。


          ◇


扉を開け、私は初めて外に出た。

目の前には十数本の木が立ち、足元には草がまばらに生えている。
その向こうには、見渡す限りの草原が広がっていた。
空が広い。風が肌をなでていく。

「妙なところに家が建ってたんだな~……あれ?」

何気なく振り返って、自分の家を見た。

普通の家ではなかった。
切り立った絶壁に穴を掘り、そこへ扉をつけたような造りだ。
隣にはやや広い空間があり、見慣れない工具がいくつも並んでいる。

作業場つきの洞窟住居、といったところか。
今の私には、並んでいる工具が何に使うものなのかさっぱりわからなかったが。

「あとで父さんと母さんに聞くか」

そうつぶやいて、私は家の周囲を歩いた。

すぐ近くに、上へ登れそうな坂がある。
登ってみると、その先にのどかな村が広がっていた。

建物は――四軒。
村というよりは、集落と呼んだ方がいいかもしれない。

その中に、一軒だけ白い家があった。
他の建物に比べて少し整っていて、どこか目を引く。
特別な人でも住んでいるのだろうか。

私はその白い家に近づいていった。
窓の一つに飛びつき、ガラス越しに中をのぞく。

すると――中には一人の赤ん坊がいた。

小さな体で、ちょこんと座っている。
指をくわえて、静かにしていた。

そう、それが私の生涯の伴侶となる女性――「モコモコ」との、初めての出会いだったのである。

赤ん坊が、ゆっくりとこちらへ顔を向ける。
目と目が合った。

ジッと見ている。
ジ~~~ッと私を見続けている。

そんなにまじまじ見られると、反応に困るよ。

やがて、赤ん坊が驚いたような顔をして、ぽかんと口を開けた。
そして……

「オ……」

「お?」

「オォ……」

「おお?」

なんだとう、急に。
一体私に何を言おうとしているのか?
私はかたずをのんで、赤ん坊の次の言葉に注目した。

すると――

「オギャー! オギャー! オギャー! オギャー!」

全力で泣き出してしまった。

「な、なに~!?
 さっきまで大人しかったのに、いきなりどうして!?」

私は慌てて周囲を見回す。
誰でもいい、早く来てくれ。
私は周囲をキョロキョロしながら誰か来るのを待った。

……しかし、誰も来ない。
赤ん坊を一人家において、家族は一体どこに行ってしまったのか。

「オギャー! オギャー! オギャー! オギャー!」

赤ん坊は泣きやむ気配がない。
ぐぐぐ……仕方がない。

私は窓を開けて中に入った。
赤ん坊のベッドまで駆け寄り、抱き上げる。

「お~よしよし、いい子いい子、泣いちゃだめだよ~……って、うぐぐ」

抱き上げてすぐにわかった。
ウンコだ。
ウンコをしたのだ。
それで泣いていたのか。

「オギャー! オギャー! オギャー! オギャー!」

赤ん坊が「早くどうにかしろ!」と言わんばかりにガン泣きする。

「ええっと、替えのおむつは……あった」

ベッドの脇に準備されていた。
桶に水とタオルも用意されている。ありがたい。

私は赤ん坊のおむつを外した。

「あ、メスだ」

「オギャー! オギャー! オギャー! オギャー!」

「あ~はいはい、わかったわかった。
 それじゃ~キレイキレイしましょうね~。
 は~いはいはいはい、よ~しよしよしよし」

そういいながら、テキパキとキレイキレイしてあげて、オムツをつけてあげた。
初めてでやり方は知らなかったが、ま~、どうにかなるものだ。
おかしかったら家の人が対応するだろう。

「バブ~」

スッキリしたようで、赤ん坊は落ち着きを取り戻した。
よかったよかった。
……が、どっと疲れたよ、まったく。

初めての異世界散歩で、よその家の赤ん坊のおむつを替えることになるとは。
もう帰って寝よう。今日は十分がんばった。

私がそう思って立ち上がりかけた、そのとき。

ガシッ。

「え?」

服の裾をつかまれていた。

「バ~ブ~!」

「ええ~っ!?」

帰してくれなかった。

私はしばらく赤ん坊をあやし続けた。
揺らしたり、ベロベロバ~してあげたり、桃太郎の話をしたり。
赤ん坊はキャッキャと喜んでいた。

そして、ようやく眠りについてくれた。
あやうくこちらの方が先に力尽きそうだったよ。

ボロボロになった私は、ようやく帰路についた。

「た、ただいま……」

「おかえりなさい。お外はどうだった?」

「ま、まずまずだったよ……」

それだけ言うのが精一杯だった。

私はふらふらと自分のベッドによじ登り、倒れ込むようにして目を閉じた。
次の瞬間には、もう眠っていたと思う。

「あらあら、とっても疲れたのね」

母さんはそう言って、布団を上からかぶせてくれた。
そして、幸せそうに私を見つめていた。
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