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異世界転生神話 モコモコ道 ~いずれ魔王になる神は、最愛の女性を幸せにできない~ 作者:ムスイ
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第04話(一)異世界からの転生者ムスイ(2)

眼を開けると、見慣れぬ天井があった。

(ここはどこだろう?)

薄っすらとそんなことを考えていると、
二体の存在が近づいてきた。

「起きたか~。ムスイ~、お父さんだよ~」

「お母さんよ~」

見知らぬ存在が、微笑みながら私に話しかける。

(お父さん? お母さん? 
 ……どういうことだ?)

状況がまったくわからない。

それに、体が思うように動かない。
手足に力が入らず、視界もやけに低い。

さっき、女神を名乗る人物が変なことを言っていたが……。

お母さんと名乗る存在が、私を抱き上げる。
優しく抱きしめ、頬にスリスリしてくる。
柔らかな腕。温かいぬくもり。

(軽々と持ち上げられてしまった……。
 これはもう、認めるしかないのか……)

嫌な予感が、ゆっくりと確信へ変わっていく。

(私は……、赤ん坊になっている)

信じがたいが、そう考えなければ説明がつかない。

つまり、先ほどの女神は本物だったということだ。
確か、あの女神は私が「パソコン画面を殴って死んだ」と話していたな。
うっすらとだが、そのような状況になった記憶はある。

私は死んだのか?
そして、生まれ変わった、ということなのか?
何ともばかげた話だが、こうなってはもう受け止めるしかない。

「ハァ~……」

私は深いため息をついた。

なんやかんやと私のことで話をしていた私の両親らしき人物たちは
大人しくしている私をベッドの上に乗せると、
少し離れた場所の椅子に座り、お互い抱きしめあい、スリスリスリスリし始めた。

なんだあれは。異世界の文化か?
よくわからんが、二人とも仲がよく、幸せそうだというのはわかる。
よくわからんが、あれが異世界の愛情表現なのだろうか?
よくわからんが、本当によくわからんぞ。

そういえば、目を覚ましてすぐも、あの二人はスリスリしてたな~。
周囲に「ハートマーク」が飛び回っているし、愛情表現なのだろう。
よくわからんが。

何にしても、これからどうすればいいのか・・・・・。

そこまで考えた瞬間、胸の奥がすっと冷えた。

(死んだ……?
 私はあっちの世界で死んだ、ってことだよな?
 そ、それじゃあ、母さんはどうなるんだ?)

私はマザコンだった。
だから真っ先に母さんの顔が浮かんだ。

(大学を出て、やっと働けるようになって、
 これからがんがん稼いで、やっと親孝行できると思っていたのに。
 それなのに、それなのに……
 私は、パソコンをぶん殴って人生を終えたというのか!?)

あまりにも情けない結末だった。

頭の中に、怒っているだろう光景が浮かんだ。
私は病院のベッドの上に横たわっている。
顔に白い布がかぶせられている。

そこへ駆けつける母さん。
「ムスイ~!」と叫び、私にすがりついて泣いている。

(なんという親不孝者だ、私は!
 母さん……、ごめんよ。
 何も返せないまま、こんなアホな死に方をして……、本当に、本当にごめんよ)

私は心の中で何度も何度も母さんに謝った。
会いたい……。
母さんに会いたい……。
その思いが止まらなかった。

「オギャ~! オギャ~! オギャ~!」

私はマジ泣きしてしまった。
それを聞いて、スリスリしていた二人が慌てて駆け寄ってくる。

「お~よしよし、泣かなくていいのよ~。
 いい子いい子」

異世界の母さんがなんとかなだめようとする。
しかし、私の涙は止まらない。

見かねた異世界の父さんが、私を抱き上げた。

「よし、代わろう。
 俺が高い高いしてみるよ」

父さんの高い高いが始まった。
いやいや、高すぎるだろう。

あまりの高さにドン引きして、思わず泣くのを忘れた。
そのまま父さんの顔を見上げていると、
ふと、あっちの世界の父さんのことを思い出す。

(……そういえば、父さんのことを忘れていたな)

母さんばかり思い浮かべていたが、当然、父さんだっているはずだ。
悲しんでいるに違いない。

(外で働き、苦労して金を稼いでいるというのに、
 肝心な時に存在を忘れられるだなんてな~。
 考えてみると、男ってのは損な役回りだよ、まったく。
 父さんと酒でも飲みながら、もっといろいろなことを話しておくべきだったな~)

そんなことを考えていたら、なんだかおかしくなって笑ってしまった。

「キャッキャッ! バ~プ~!」

「お、ムスイが笑ったぞ!」

「まぁ、あなたのあやし方が上手かったのね、うふふ」

二人は顔を見合わせ、嬉しそうに笑っている。

ま~、悩んでいても仕方がない。
おそらく、もうあの世界には戻ることができないだろう。
それなら、ここで生きて行くしかない。
やるべきことを考えて、しっかりと生きて行かなければ。

こうして私は、この世界で強く生きて行くことを心に決めた。

(しかし……、異世界の両親って何歳なんだろう?
 私、一応23歳だったんだけどな~。
 なんか、私よりも年下に見えて仕方がない。
 ま~、別にいいけど。

私はそんなことを考えながら、
またウトウトと眠りの中に戻っていった。


■■ ムスイは神だった

天元にて。
そのころ、天元では魔王が生まれたばかりのムスイを映像越しに見つめていた。
そして、低くつぶやく。

「……こいつが、転生者か」

魔王のその口調に、わずかな違和感があった。
いつもとは何かが違う。
女神はそれを見逃さなかった。

「どうかされましたか、魔王様」

魔王はすぐには答えず、赤ん坊のムスイを見つめ続けていた。
やがて、静かに口を開く。

「こいつは、人ではあるが……神でもある」

「神、ですか?」

女神は目を丸くした。

「ああ。考えられん話だが、
 世界そのものが、こやつを神に任命したようだ」

「人が神になれるものなのですか?」

「……ふぅむ」

魔王はジロリと女神を見る。
女神は「あ、何度か教わったことなんだ」と悟り、
そっぽを向いて誤魔化そうとする。

そんな女神を見て、魔王は解説を始めた。

「神になる条件は2つある。
 一つ目がレベル1000に到達すること。
 二つ目が世界に任命されることだ」

「そういえば、そうでしたね(ウフフ)」

女神は満面の笑みで返す。

「本来、レベル1000に到達したものを神と呼ぶ。
 そして、レベル1000に到達したものの中から
 世界が正式にこの世界の神になるものを任命する。
 神とはそういうものだ。
 しかし、今回はその法則を無視してしまっている」

「珍しいケースなんですね。
 でも、面白そうだからいいじゃないですか」

そういう女神を見て、魔王は呆れと共に深い溜息を吐く。

「女神よ。この世界は、私がお前のために作ったものだ」

「はい。そういえばそうでしたね」

「そういえば、ではない」

魔王の声が一段低くなる。

「この男が神になったということは、お前のものになるはずだった世界を、奪われたということになるのだぞ」

「私はそのようなことは気にしません。
 それに、奪われてしまったのであれば、また新たに世界を作ればよいではありませんか」

そう言って、女神は「フフフ」と笑った。

魔王は頭を抱えた。
そして、映像の中の転生者を見つめながら、絞り出すように言った。

「……だが、なぜ世界は、この男を神に任命したのだろうか」

まったく納得がいかないという表情だ。
絶対的な存在であるはずの魔王が、ハッキリと困惑している。

女神はそんな魔王の横顔を、嬉しそうに眺めていた。
今まで、魔王がこんな表情を見せたことは一度もなかったからだ。

(なんだか楽しいことが始まったような気がする)

女神は心の中でそう思いながら、密かにほくそ笑んでいた。
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