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01話 (終)私が聖女?
「あああ……、一人で、一人で来てしまった……、
クリシタリア聖国のお城に……」
昨日、私は勇者パーティーの一人としてここにやってきた。
クリシタリア聖国の聖女リナ様に謁見するためだ。
剣士のシュート君、魔法使いのサクヤちゃん、そして、弓使いの私。
緊張したけど、二人の陰に隠れ、無事終わらせることができた。
謁見が終わり、お城から出てすぐ、兵士に呼び止められた。
私だけ、明日一人で来るように、と。
なんで私だけ……。
おかげで緊張し、昨日はほとんど眠れなかった。
宿屋を出るとき、シュート君とサクヤちゃんが見送ってくれた。
私は心配かけまいと気丈にふるまったんだけど……、
いざ、お城の門までやってくると、胸のドキドキが抑えきれない。
「……私、何かやっちゃったのかな」
城の入り口に、門番の兵士さんが二人立っている。
緊張しながらも、私は声をかけた。
「あ、あの、ワタクシ、モコと言います、申します。
リナ様にお呼ばれされまして、おやってきました」
丁寧さを意識するあまり、言葉が変になってしまった。
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
普段はシュート君が対応してくれているので、うまく言葉が出てこない。
「聞き及んでおります。
どうぞ、こちらへ」
兵士さんは眉ひとつ動かさず、そう答えてくれた。
笑われなくてよかった。
とてもやさしい人だ。
兵士さんに案内され、私は後ろをついていく。
石畳の廊下を抜け、中庭を渡り、たどり着いたのは――
「こちらでお待ちください」
木造の、教会のような建物の中に案内された。
お城の中じゃないのか。
建物の古さが私が住んでいた孤児院によく似ている。
おかげで、少しだけ緊張がほぐれた。
正面には祭壇があり、椅子がずらりと並んでいる。
100人くらいは入れるだろうか。
古い木の匂いがした。
建物は古いけど、中はとてもきれいに掃除されている。
一歩、踏み出す。
床がギシギシと鳴った。
もう一歩。またギシギシと鳴る。
大勢の人が集まったら、重みで抜けてしまうんじゃないだろうか。
私たちは勇者パーティーとして、いろいろな国を渡り歩いてきた。
どこの国の教会も立派で、見とれるものばかりだった。
金の燭台。色鮮やかなステンドグラス。天井いっぱいに描かれた絵。
だけど、ここは違う。
柱の木は色が抜け、壁のあちこちがひび割れている。
何百年も前に建てたものなのだろうか。
正直に言えば、私が育った孤児院よりもボロボロだ。
「ここが世界最高の国の教会だなんて信じられない。
……ううん、そっか。
貧しい者と共に生きる国、だもんね。
自分たちのために使うお金があるなら、民に回す。
だから、この国はみんなに尊敬され、愛されてるんだろうなぁ……」
「ほめてくださっているのですね。ありがとう」
いきなりの声に、背筋が凍った。
振り返る。
扉の外に、一人の女性が立っていた。
この国で最も尊い御方――リナ様。
そしてその後ろに、警備兵が二人。
「リ、リナ様!
ご、ご、ご機嫌麗しゅうございます!」
独り言だったのに、聞かれてしまった。
私、何言ったんだっけ。
ボロボロとか言わなかったっけ。
言った。言った気がする。
頭の中が真っ白になった。
「ごめんなさいね、呼び出してしまって。
あなたとゆっくり話をしたかったのです。
奥に個室があります。
そこでゆっくりとお話ししませんか?」
「は、はい! ふつつかものですが、よろしくお願いいたします!」
よくわからないことを言ってしまった。
「ふふ。そんなにかしこまらなくていいのですよ。
普通に話してくださいね」
「は、はい。わかりました」
そう言われて、少しだけ緊張がほぐれた。
「それでは、ここは誰も通さないでくださいね」
「かしこまりました」
警備兵たちは教会の入り口にとどまった。
「それではモコモコさん、こちらへ」
「はい!」
リナ様に案内されながら、私とリナ様は奥へと歩みを進めた。
リナ様についていきながら、私はつい見とれてしまう。
とても若くて、きれいな方だ。
私より少し年上くらいにしか見えない。
41歳になると聞いたけれど、到底信じられなかった。
歩き方も、声も、驚くほど穏やかだ。
飾りのない、白い衣。
指輪ひとつ、していない。
この人が国の頂点に立つ方だなんて、
言われなければ、絶対に気づけないと思う。
祭壇の裏手に、下へ続く階段があった。
コツ、コツ、と足音が反響する。
一段下りるごとに、空気がひんやりと重くなっていく。
土と、石と、古い蝋の匂い。
壁のくぼみに置かれたランプの火が、私たちの影を大きく揺らしていた。
上の教会よりも、ずっと静かだ。
自分の心臓の音が、聞こえてくるような気がする。
階段を下りきると、扉があった。
リナ様が押し開ける。
中は、思ったよりも小さな部屋だった。
テーブルと、椅子がいくつか。
それだけ。
地かだから窓はない。
「どうぞ、こちらにおかけください」
「はい、失礼します」
私とリナ様は、向かい合って椅子に座った。
私はうつむいたままだ。
リナ様を直視するなんて、恐れ多い。
膝の上で、指を組んだり、ほどいたりする。
……でも、私にいったい何の用なんだろう。
私は、チラリとリナ様を見上げた。
リナ様は、何かを考えているようだった。
私を見ているようで、私のすぐそばの空間に目を向けている……
ような、気がする。
何もないはずの、空間に。
そしてリナ様は、意を決したように顔を上げ、まっすぐに私を見つめた。
「謁見の際に、あなたは『弓使い』と言っていましたが、
本当は神官の能力、『霊力』があるのではありませんか?」
「……え!?」
思わず声が出た。
予想だにしない言葉だった。
どうしてわかったんだろう。
「はい……、私には霊力があります」
「どうして、それを秘密にしているのですか?」
「それは……、
実は、小さいころに怪我している女の子がいて
それを回復魔法で直してあげたことがあるんです。
それが、ビックリするくらい光を放っていて……。
みんなが驚いているのを見て
『これは人に知られてはいけない能力なのでは?』と思って、
それで、あまりそのことは知られないようにしてきたんです」
「そういうことですか……」
リナ様は考え込む。
「……あなたのまわりで、何か不思議なことを感じたことは、ありませんか?
たとえば……誰かがそばにいるような、そんな気配を」
「気配、ですか……?」
私は考えた。
だけど、心当たりがない。
「……いえ。そういうことは、ないと思います」
私がそう答えた瞬間、リナ様の目がわずかに揺れた。
そして、ほんの一瞬だけ、私のそばの空間に視線を送った。
一体、何を意識しているのだろうか?
リナ様は右手の拳を唇につけ、しばらく考え込んだ。
そして、二度うなずく。
「……わかりました。
やり方を変えましょう」
リナ様は立ち上がると、部屋の壁と向かい合い、押した。
すると、壁が開き、戸棚が現れた。隠し扉だ。
そこから何かを取り出す。
あれは……透き通った水晶だった。
手のひらに乗るくらいの大きさで、ランプの光を受けてきらきらと輝いている。
リナ様は水晶をテーブルの上に置き、椅子に座る。
そして、両手で包みこむように手を乗せ、目を閉じた。
「彷徨う闇よ、この器に集え」
低く、静かな声で呪文を唱える。
すると――水晶が、みるみるうちに黒く染まっていった。
透き通っていたはずの水晶が、まるで闇を閉じ込めたかのように、漆黒に変わる。
「……っ」
息を呑んだ。
透明だった水晶が、まるで別のものになってしまった。
リナ様は、その漆黒の水晶を私の前に置いた。
「これに手をかざし、『光よ満ちよ、闇を鎮めよ』と唱えてください」
「え……? わ、私がですか?」
「ええ。お願いします」
私はおそるおそる、黒い水晶に手をかざした。
手のひらにあたると、ひんやりと冷たい。
言われたとおりに、呪文を唱える。
「光よ満ちよ、闇を鎮めよ」
――瞬間、手の中で水晶が熱を持った。
漆黒が溶けるように消え、水晶は白く、白く、輝いていく。
真っ白。雪よりも、雲よりも、深い白。
部屋の薄暗さの中で、水晶だけが白い光を放っているようだった。
「うわあ……、きれい……」
私は動揺しながらも、水晶の美しさに目を奪われた。
リナ様は、静かに、そして深く息を吐いた。
「……やはり」
その声は、かすかにふるえていた。
「その能力はリナ家に代々伝わってきた能力です。
そして、それこそが聖女である証し。
間違いありません。
……あなたは、聖女です」
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